正月に買っておいた本が何冊かありまして、
その内の1冊を読み終えました。
『小澤征爾さんと、音楽について話をする 小澤征爾×村上春樹』
芸術の奥深さをあらためて実感できて、
稀有な才能を持つ二人の造詣の深さをたっぷり味わえる、
久しぶりに読み応え充分な本でした。
指揮者という職業が、音符という単なる記号の集まりである楽譜を、
実際のオーケストラの音楽にする為に、
どう考えどんな努力をしているのかが、よく伝わってきました。
よく、「建築家はオーケストラの指揮者」である、と言われますが、
作曲家の意図するイメージを読み取り、一から自分で創っていく姿は、
建築を創っていく姿とそのまま重なります。
それぞれの音符や小節の意味を理解して、膨大な楽譜の終わりまでを
ブレずにまとめ上げる事、また、各々の楽器だけでは無く、
それらが一斉に鳴る時のハーモニーといったものを、楽譜だけから
読み取って方向性を決めていくわけですから、一つの交響曲を創り上げる
事が、凄まじい程の困難な作業なのは想像するに難くありません。
建築はその性格上、純粋芸術ではなく総合芸術であると言われます。
建築が商業ベースと切っても切れない性格を持つ為です。
建築を創っていく時、経済的なモノサシや、法令や技能などの技術的な
要因だけでも建築は出来上がる、いや、出来上がってしまうわけです。
しかしそれは全くナンセンスで無価値なモノであると、
この世界的指揮者は言っているのです。
楽譜を読み込み作曲家の意図を理解して、それぞれの楽器や演奏者の個性を
活かしながら、オーケストラを育てていき、美しいハーモニーの元に演奏を
如何に創り上げていくかが指揮者の全てだと。
これはそのまま建築に置き換える事が出来ます。
図面(=楽譜)をどう解釈して、
それぞれの素材(=楽器)や施工者(=演奏者)の個性を活かしながら、
美しいハーモニーの元に建築(=演奏)を創り上げるか。
一つの建築を構成するのには、構造や設備、また法律や素材や工法など
様々なことを理解しなければなりません。
設計という作業はいわば「作曲」、設計監理は「指揮者」ではないでしょうか。
同じ素材でも、色や表情、ディテールを工夫することで、
それが微妙な音程の差となって空間の中でお互いに響き合うし、
管楽器や弦楽器など種類の違う楽器のように
様々な素材をどのように組み合わせればどんな空間になるのかを
常に考える事が、良い建築を創る大きな武器になるように思えます。
コストや流行といった経済的や市場的な観点からだけでは無く、
審美性や普遍性といった人間の心情に訴えかける解釈を加えてこそ
初めて激的な感動が産み出される。
そこへ導いていく事こそが、建築家の仕事であると…。
建築を創る一人の人間として、
常に指揮者の心でありたいと改めて思わされました。
新年早々、エラ真面目に語ってしまいましたが、
建築も音楽も人々の喜びの為にあるのは変わらないです。